

創業1910年(明治43年)。石油製品の販売を祖業とし、ガソリンスタンド、産業用燃料、プロパンガスなど、地域のエネルギー供給を1世紀以上にわたって支えてきたマルシメ株式会社様。
しかし、脱炭素、電動化、そして人口減少という、避けることのできない時代の大きなうねりの影響で、既存事業に関連のある新たな事業や商品を生み出していかないといけない、
そんな危機感の中、新規事業開発のパートナーとして選んだのは、コンサルティングファームではなく「学生」との共創プロジェクト。
なぜ、歴史ある企業が、未知数な学生たちに未来を託したのか。そこからどのような化学反応が生まれ、次の100年へ向けた確かな一歩に繋がったのか。代表取締役社長の大熊様に、燠火(新規事業開発インターンシップ)の背景と、半年間のプロジェクトで得られたリアルな手応えを、余すところなく語っていただきました。
未来への危機感が生んだ、事業変革への渇望
――まずは、貴社が置かれていた状況と、新規事業開発に取り組むに至った背景を詳しくお聞かせください。
弊社は、ガソリンスタンド運営から工場・農家さんへの重油販売、オイル交換後の廃油を再生重油にする循環システムまで、石油製品のサプライチェーンを幅広く手掛ける「油屋」です。この地域の産業とは切っても切れない関係を築いてきました。
しかし、皆さんもご存知の通り、世の中は「脱炭素」へ大きく舵を切っています。もちろん、化石燃料がゼロになるとは思いませんが、間違いなく需要は減っていく。特に、売上の半分を占めるガソリンスタンド事業は、車の電動化によって大きな影響を受けます。「今までガソリン車に乗っていたお客様が、EVに乗り換えた瞬間に店に来なくなる。そんな未来は絶対に避けたい」。その一心で、EVの車検やメンテナンスができる体制を整えるなど、変革を進めています。
ただ、課題はそれだけではありません。より深刻なのが「人口減少」です。例えば、この地域は菊の生産が盛んですが、近年はお葬式の小型化で菊の需要が激減しています。結果、農家さんは菊栽培をやめ、重油を使わなくなる。これは脱炭素とは全く違う文脈で、私たちのビジネスの土台が静かに、しかし確実に侵食されている現実です。
「我々の商売は、世界で作られたものを『この地域で』売ること。だから、この地域が沈んだら、我々も絶対に沈むんです。ベトナムで稼いでくる、という訳にはいかない」。この強い危機感が、既存事業の延長線上ではない、全く新しい価値を創出しなければならないという、事業変革への渇望に繋がりました。

変革への序章:スタートアップとの出会いが、新たな扉を開いた
――そのような強い課題意識の中で、弊社のサービスとはどのように出会われたのでしょうか?
全ての始まりは、本当に偶然の出会いでした。ある展示会で、弊社の幹部が地元の製造業の社長さんと名刺交換したことがきっかけで、この地域のスタートアップを盛り上げる「東三河スタートアップ推進協議会」の存在を知り入会することにしました。
というのも、私自身、かつて起業を志した経験もありますし、フリーランスとして活動していた時期もある。だから、新しいことに挑戦する人たちを応援したい、その熱気に触れていたいという思いがもともと強くありました。
協議会での活動を通じて、様々なイベントに参加したり、志ある起業家たちと交流したりする中で、御社(株式会社Lirem)と出会いました。「地域を活性化させたい」という我々の思いと、「学生と共に企業の新規事業を創出する」という御社の取り組みが、ここで見事に一致したのです。もともと漠然と抱いていた「新しい風を社内に入れたい」という考えが、この出会いによって「学生との共創」という具体的な形を見出した瞬間でした。
なぜコンサルではなく「学生」だったのか? 未来への投資という選択
――事業変革のパートナーとして、弊社の学生インターンシッププログラムを選ばれた決め手は何だったのでしょうか?
理由は大きく3つあります。
1つ目は、凝り固まった我々の思考を壊してくれる「忖度のない奇抜なアイデア」への期待です。社内には、どうしても「変わらない方が心地いい」という空気が8割方を占めています。外部のプロに頼む手もありましたが、それでは過去の成功体験に基づいた、ある意味「予測可能な」提案に落ち着いてしまいがちです。その点、ビジネスの常識に染まっていない学生たちは、突拍子もないことを言ってくる。そのカオスな状態こそが、停滞した空気をかき回し、新しい発想やイノベーションを生む起爆剤になると考えました。
2つ目は、これは「地域の未来」への投資だという確信です。先ほども申し上げた通り、我々の事業は地域と一蓮托生です。このプログラムを通じて、学生たちが起業家精神やビジネスの面白さに目覚め、将来この地域を盛り上げる人材に育ってくれたら、これほど嬉しいことはありません。彼らを応援することが、巡り巡ってこの地域で事業を展開する自分たちの未来を豊かにする。そう信じています。
そして3つ目は、現実的な話ですが、圧倒的なコストパフォーマンスの良さです。もちろん、学生たちに丸投げする不安はありました。しかし、間に御社(株式会社Lirem)が入り、プロジェクトをしっかりマネジメントしてくれる。学生たちの突飛なアイデアと、それを事業化に向けて伴走してくれるマネジメント機能。この両輪があるからこそ、安心して任せられると感じましたし、戦略コンサルに依頼することと比較しても、得られる刺激や学びを考えれば非常に価値ある投資だと判断しました。

思考の枠を壊した、学生との化学反応
――今回のプロジェクトテーマは「農業分野での新規事業創出」でした。実際に学生チームと協業してみて、どのような成果や気づきがありましたか?
いやもう、毎回が刺激や学びの連続で、良い意味で期待を裏切られ続けましたね。
当初、我々は「油に代わる何か」として、ドローンやAIロボットのような「生産支援」のツールを漠然とイメージしていました。ところが、学生たちから出てきたのは、「農家さんは、作れるけど売れないことに困っている」という一次情報に基づいた、全く逆の「販売支援」からのアプローチでした。
そして議論の中で出てきたのが、生産者と消費者をダイレクトに繋ぐプラットフォーム、いわゆる「農産物のSPA(製造小売)モデル」というコンセプトです。ユニクロのように、農産物の生産計画から販売までを一気通貫で手掛けるという発想には、まさに目から鱗が落ちる思いでした。「なるほど、その手があったか!」と。自分たちだけでは、絶対にこのアイデアには辿り着けなかった。彼らとの議論は、私の脳内を強制的に活性化させてくれました。
学生だからこそのメリットは他にもありました。彼らが地域の農家さんにヒアリングに行った際、我々のような事業者が行くと構えられてしまう場面でも、「農業を勉強している学生さん」という立場だと、相手が心を開いて本音を話してくれるんです。忖度や利害関係がないからこそ引き出せるリアルな声は、事業を構想する上で何よりの財産になりました。
この一歩を、地域のスタンダードに。悩むくらいなら、まず飛び込むべき
――最後に、今後の展望と、本プログラムの導入を検討している企業様へのメッセージをお願いします。
今回のプロジェクトで生まれたアイデアの種を、今後、第二弾、第三弾と学生たちとの共創を重ねながら、事業として育てていきたいと考えています。農業だけでなく、他の分野でもぜひ挑戦したいですね。
もし、この記事を読んで、新規事業や社内変革に課題を感じ、このプログラムに少しでも興味を持った方がいるのであれば、私から伝えたいのは「悩んでいる暇があったら、まずやってみるべき」ということです。
得られる成果は、事業アイデアだけではありません。未来を担う若者たちの視点、社内の活性化、そして何より、経営者である自分自身の固定観念を打ち破る絶好の機会になります。
「学生をマネジメントするリソースがない」と不安に思うかもしれません。しかし、そこをLiremがサポートしてくれるのが、このプログラムの価値です。学生との化学反応は、きっと皆さんの会社がイノベーションや新領域/新規事業を立ち上げるための、大きな推進力となるはずです。この取り組みが、この地域や日本社会のスタンダードになっていけば、企業や経済の発展に繋がると思っています。
